チャンスを生み出す共感力

大橋修吾

静岡県生まれ。
秋田の国際教養大学卒。卒業後、秋田県男鹿市観光課地域おこし協力隊に就任し、自転車観光促進に携わる。2020年10月まで副業として週1のハンバーガー屋を営む。現在は起業準備中。

起業への興味から出会った創業本気プログラム

大学入学時から起業に興味を持ち留学先でも社会起業論などを学んでいた大橋さんは、進路を考える中で、大学時代を過ごした秋田県に残りたいという思いがありました。今まで暮らした土地の中で最も問題意識を持って暮らしていたのが秋田県だったので、この場所で自分自身で価値を生み出したいという気持ちが強くなりました。
世の中を便利にするサービスを生み出したり、大きな課題を解消する事業に取り組む起業家への憧れを抱いていた大橋さんですが、自らの起業と思うと、様々な不安にぶつかったと言います。もっとリアルに起業を学びたいと思った時に紹介されたのが、創業本気プログラムでした。

「プログラムに参加すれば、ビジネスプランが具体的になり、起業にグッと近づくと期待していましたが、甘かったですね(笑)」
と当時を振り返る大橋さん。“創業本気”の名の通り、周りの参加者はそれぞれの事業を、現実にするために、本気で取組んでいる中、大橋さんの頭に浮かぶ“やりたいこと”は、事業には程遠いものばかりでした。

「自分の半径50 mから100 m くらいの人の不満は解決するけれど、社会全体でみたときに本当にそれを必要としている人がいるのか?というものが多く、小さくやるなら全然できるだろうけれど、大きな社会的還元ってなんだろう?と考えるとビジネスプランまで踏み込むことができませんでした。」

結局、プログラム参加中にビジネスプランを完成させることはできませんでした。しかし、大橋さんはプログラムに参加したことで、現在の自分につながる気づきを得ることができたと言います。

「収支計画の作り方や見込み客のヒアリングなど、技術的な学びも大きかったです。それ以上に、秋田まで足を運んでくださったメンターやプログラム中に支えてくださった方々の姿勢を見ることができたのが大きかった。自分自身の人との関わり方や、こういう人間でありたい、こういう生活したいと言う『在り方そのもの』が育まれた期間だったと思います。」

試行錯誤、仕事ができるまで

プログラムを卒業し大学の卒業が近づく中、大学の先輩から地域おこし協力隊を紹介されました。その先輩は秋田で外国人向けの旅行企画会社をされており、大橋さんは在学中から度々翻訳や企画の運営などを手伝っていました。大橋さんの秋田に残って働きたいという話を覚えていて声をかけてくれたと言います。
秋田県男鹿市で、行政と民間で観光関係の事業を始めることになり、その実働部分の人材を地域おこし協力隊の枠で募集するという話でした。裁量のある仕事で、かつ秋田県の中でも観光客の多い男鹿市での仕事ということに興味を持ち、協力隊に就任することを決めました。

しかし、協力隊に就任してわずか2ヶ月ほどで大きな転換期を迎えることになります。

「協力隊として取組むはずだったプロジェクトが諸事情で継続できなくなったんです。自分はそのプロジェクトのために採用されたので、突然仕事がなくなってしまい流石に困惑したのを覚えています。
プログラムは無くなったけれど協力隊として仕事をしなければならず、他にやることを考えてくれと言われて暫くは手探りでモ自主企画イベントや小規模ツアーなどを行っていました。」
  
突然の事態に英語や学生の人脈など自分の強みを活かし様々なことを試しましたが、どれもビジネスには繋がらず、時間だけが過ぎてきました。

そんなある日、観光課で2020年4月からレンタサイクルの事業を始めたいのでやらないかと声がかかり、事業の立ち上げから任されることになりました。

創業本気プログラムで得た知識を活かし、事業を立ち上げた大橋さん。
うまくいかないこともありながらも挑戦し続け、県内のメディアからたびたび取材を受けるまでになります。
徐々にお客さんも増え、利用者との関わりにやりがいを感じ、ようやく地域の観光へ貢献できていると実感することができるようになりました。

チャンスを掴む天性と努力

事業委託で協力隊を務めているため、複業が可能だった大橋さんは、レンタサイクルが休止になる冬の間、男鹿市で昭和14年からお店を構える知り合いのお肉屋さんでアルバイトをすることに決めました。

「これまで飲食業で働いた経験がなかったのですが、趣味で始めたハンバーガー作りから飲食業って面白そうだなと感じるようになりました。そんな時に、男鹿市で出会った尊敬するロールモデルたちから週1回ハンバーガー屋を出店しないかと声をかけていただいたんです。」

声をかけてくれた方は、公民館の中にある閉店した喫茶店を借りて手直しし、日替わりで飲食の出店希望者に貸し出すシェアキチンを運営されていました。市外の出店者が多いため冬の時期は雪の影響で希望者が減り、空きが出ているのでよかったら挑戦をしてみないかという提案でした。

「もともと、国内外の観光客や友人が訪れたときに、やることがなかったり食べたいご飯もないと言う課題感がありました。男鹿は自転車やバイク、ドライブなどで海岸線を見にくる人も多く、テイクアウトできる食べ物があればいいのにと漠然と思っていました。
そんな時に、声をかけていただいたので、物凄いタイミングでした!」

飲食で働いた経験のない大橋さんでしたが、働いていたお肉屋さんが推薦してくれるなど、尊敬するロールモデルの経営者たちから背中を押され、大きな一歩を踏み出しました。

大橋さんのハンバーガー屋さんは、口コミで広がり、毎週楽しみに通ってくれる人もいたそうです。市外でも「男鹿でハンバーガーをやっている人」と認識してもらったりと、お客さんを増やしていく成功体験を積むことができました。

協力隊の紹介やハンバーガー出店の機会など、大橋さんの元にはなぜタイミングよくチャンスが舞い込んでくるのでしょうか?
その秘訣は『こう在りたい』をしっかり持っていること。そして、自分の考えややりたいことを発言・発信していること、機会を逃さず実行することではないかと思います。

大橋さんが描く未来

秋田県男鹿市での協力隊の任期は2021年の3月を迫ってきている今、大橋さんはどんな未来を描いているのでしょうか?
大橋さんに今後の展望を聞きました。

「今は移動販売車の事業計画を作っています。ただ、どうしてもハンバーガー売りたいわけではなくて、正直売るものはなんでも良いんです。
これからまた同年代や海外観光客が訪れることを考えた時に、男鹿にはこれがあるんだよというものを、自分自身が自慢できるもの、心が乗るものが作りたいと思っています。僕の場合それがハンバーガーなんです。

あと、僕は映画が好きで、以前秋田で『地方で映画を見るという事』にちなんだシンポジウムに参加した際、海外旅行のハードルが高かった昔は映画を通して海外の様子や文化を学んでいたという話を聞き、今は海外旅行のハードルも低くなったけれど、食を通して同じような事ができるのではと可能性を感じています。語学や異文化理解のような勉強から入るとハードルが高いけれど、食べ物は誰でも興味あることなので、それを軸に移動販売車で週3日はハンバーガー売り、週2日は別の仕事をやって暮らせるお金を稼ぎながら、年に1か月ぐらいは休みを取って海外旅行に行き、新たなインスピレーションを得て自分の移動販売車に反映する。というようなことができれば楽しいかなと思っています。」

編集後記

大橋さんは創業本気プログラム参加当時、学生だったということで、START! ONAGAWA通信初の学生参加者さんのインタビューでした!
インタビューさせていただく前の印象で、仲間や協力者の見つけ方や、チャンスを上手く掴んでいるのが印象的で、その秘訣はなんなのか気になっていたので、お話を聞く中でその理由を少し解明できたのでは?と思っています。
何より、自分の感性や好奇心に素直に従っていらっしゃるのが印象的でした!

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