2日間だけのバンド

2日間だけのバンド

女川で、お試し移住に来る人を迎え入れることが増えた。

もちろん、来る人はみんな違う。

仕事をしに来る人もいれば、地域を見に来る人もいる。何かを始めたくて来る人もいれば、ただ少しだけ暮らしてみたくて来る人もいる。

そんな中で、たまたま集まった4人がいた。

ドラム、ベース、ギター、ボーカル。

出会った場所は、コワーキングスペース。

最初からバンドを組もうとしていたわけでもない。何か大きな目的があったわけでもない。

ただ、たまたまそこにいた人たちが、
「じゃあ、やってみようか」
と集まった。

僕は楽器ができない。

だから、その輪の中に入って演奏することはできなかった。

でも、そんな自分だからこそ、その2日間だけの時間を少し離れたところから見ることができた。

それぞれがチューニングをして、音を合わせる。

「ここどうする?」

「この辺で入ろう。」

立ち位置を決める。

久しぶりに触る楽器を確かめるように、少しずつ音を鳴らしていく。

その姿を見ていて、ふと思った。

「あ、放課後の軽音楽部って、こんな感じなのか。」

誰かに頼まれたわけでもない。

仕事でもない。

明日のために必要なことでもない。

ただ、音楽が好きだから集まっている。

そんな時間だった。

そして、楽器を鳴らし始めると、4人の表情が少しずつ変わっていった。

さっきまで普通に話していた人たちが、楽器を持った瞬間に別の顔になる。

久しぶりに触ったはずの楽器。

それでも、身体が覚えているものがあるらしい。

指の動きだったり、リズムだったり。

音を鳴らしているうちに、昔のことを思い出しているようにも見えた。

きっとそれぞれに、音楽をやっていた頃の時間がある。

放課後の部室。

友達と合わせた時間。

初めてステージに立った日。

うまく弾けなかった日のこと。

夢中になって練習したこと。

そういう過去が、楽器を鳴らすことで少しずつ戻ってきているように見えた。

そして、不思議だった。

出会って、まだそんなに時間が経っていない。

それなのに、音を鳴らすと息が合う。

言葉を交わさなくても、次に誰が入るのかがなんとなくわかる。

音楽って、そういうものなのかもしれない。

人と人が出会ってから、仲良くなるまでには時間がかかる。

どんな人なのかを知って、
何を考えているのかを知って、
少しずつ距離が近づいていく。

でも、音を鳴らせば、その時間を飛び越えてしまうことがある。

音楽を通して、
「この人はこういう人なんだ」
と知る。

その瞬間を見ていたら、正直、少し羨ましくなった。

かっこよすぎた。

「ああ、みんなこんなにかっこいいんだ。」

普段は普通に話している人たちなのに、
好きなものの前に立った瞬間、こんなにも輝く。

たぶん、人には誰にでもそういう瞬間があるんだと思う。

仕事をしているときでもない。

誰かに評価されるときでもない。

ただ、自分が好きだからやっている。

その時間だけ、その人がその人自身に戻っていく。

そんな姿を見ていると、

「そりゃ、音楽に人生を注ぐ人もいるよな」

と思った。

自分が何かを演奏できるわけではないからこそ、余計にそう思ったのかもしれない。

そして最後に、ふと聞きたくなった。

「好きな音楽はなんですか?」

でも、その質問をするのが少し億劫になるくらい、素敵な時間だった。

たった2日間。

たまたま出会った4人。

女川で、お試し移住をしている人たちが集まって、
2日間だけ音楽を鳴らした。

それだけの出来事なのかもしれない。

でも、こういう「たまたま」が起こることこそ、知らない町で暮らしてみる面白さなのだと思う。

誰が来るかわからない。

何が始まるかもわからない。

昨日まで知らなかった人たちが、
今日、同じ場所で音を鳴らしている。

そして、そこにたまたま自分もいる。

お試し移住というのは、
町を知るために来るものだと思っていた。

でも、もしかしたら、
自分でも知らなかった「誰かのかっこよさ」に出会うために来るものなのかもしれない。

それにしてもカッコ良すぎん?
また、聴かせてください。

投稿者プロフィール

松本匠世
松本匠世
兵庫県西宮市出身。23歳、現在大学院生。
大学では建築設計を専攻しており、建築分野の幅広さに気づき様々な分野を勉強中です。
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