起業という挑戦を支える
創業本気プログラムで得た大きな学び
熊坂勇宏
宮城県登米市生まれ。
東北薬科大学卒。卒業後、病院薬剤師として10年勤務した後、有限会社ミリオン薬局にて薬剤師として勤務。
理事の勧めを受け2018年に創業本気プログラムへ参加を決意し、その後起業。
熊坂さんについて
熊坂さんが創業本気プログラムにご参加されたのは2018年下期で、2019年8月には地元である宮城県登米市で『一般社団法人BEARS GATE』を起業されました。
『一般社団法人BEARS GATE』は薬剤師の職能の向上と薬剤師の未来を育てること、地元登米市に貢献することを理念に掲げ、薬剤師向けの在宅医療を学ぶことができるプログラムを提供されています。
プログラムを卒業後、集客という壁にぶつかりながらも少しずつ受け入れを増やしていた中、熊坂さんの前に新型コロナウイルスという問題が立ちはだかりました。
そんなコロナ禍でも、プログラムに参加し得た学びが今も大きな力になっていると教えてくださいました。
やれるのにやらないのは罪 背中を押した一言
熊坂さんが創業本気プログラムを知ったきっかけは、勤め先の理事である田上さんからプログラム説明会への参加を勧められたことでした。
病院薬剤師として10年勤め、現在は保険調剤薬局で薬剤師として働く熊坂さんは、職場で実務実習生を受け入れた際、環境によって薬学生たちの学びに差が出ている現状から、薬学生や現役の薬剤師が地域医療を学べる場所がないということに課題意識を持ちました。そして、薬剤師自らが選択して在宅医療を学べる機会があればいいのにと考え、併せて、登米市は宮城県で最も医療者が少ない地域ということもあり、地元に貢献することもできるのではと考え始めたそうです。
「そこから少しずつ“起業”という可能性を考え始めましたが、勤めている薬局と兼業という形での起業になるため、別にこのまま起業しなくても生活はできるし…となかなか踏み出せずにいました。それと同時に、逆に今本気にならないと一生やらないだろうな、となんとなく思っていました。」
そんな熊坂さんの背中を押したのは、説明会を勧めてくださった理事の田上さんの言葉でした。
「田上さんから『チャレンジできる環境があって更に起業に失敗しても職を失うわけでもない。やりたいことがちゃんとあって、それが社会のためになると分かっているのにやらないのは罪なんだよ』という話をされました(笑)
その通りだと思い、このままどんどん仕事が忙しくなっていくとやらなくなってしまうだろうなと思うと、挑戦してみようという気持ちが生まれました。」
本気にならないと薬剤師の未来も変えられないし、地域に貢献することもできない!と思い至った熊坂さんは、本気で取り組むため、そして、起業のスタートラインに立つためにプログラムの参加を決意しました。
事業を支えるプログラムの学び
プログラムの学びで特にメンタル面の支えになったのが、『なぜ自分が、なぜその場所で、その事業をやらないといけないのか?』をとことん突き詰めたことでした。プログラムの初回でじっくり考えることで、自分の中で軸ができ、その軸さえブレなければあとは実行していくのみだとシンプルに考えられるようになったと話してくださいました。
また、地方の先輩起業家のケーススタディでは、視野を広げることができたといいます。
「ケーススタディや、他の参加者の思いや苦しみなどを聞くことで、大きく言えば世の中との向き合い方が変わりました。お店や商品というのはそれぞれ想いが形になったものなんだということに気付かされ、他の職業や経営者、地域に興味が出てきて、ことあるごとにいろんな人たちの話を積極的に聞くようになりました。その中で一気に視野が広がり「薬剤師」や「教育」だけでなく、地域全体とのつながりを考え、自分の事業も発展的に考えることができるようになりました。」
技術的な学びで一番役に立っているのはプレゼンテーションの基礎をしっかり学べた点でした。事業を開始してからプレゼンテーションの機会がたくさん増えたそうですが、毎回誰に向けて、どういうニーズで呼ばれているのかを必ず聞き、伝えるためにはどういう準備が必要かをしっかり考えるようになりました。繰り返しプレゼンすることでどんな言葉や話し方だと伝わるのか、伝わらないのか、と徐々に磨かれていき、自分自身のプレゼンテーションの基本を作れたのが大きかったのだとお話ししてくださいました。
人を巻き込むためには関心を持って対話することから
BEARS GATEでは、参加者の方の専門や希望に合わせて、訪問診療の訪問先やセミナーの講師など、オーダーメイドのプログラムを提供しています。このように柔軟なプログラムを提供できる秘密は熊坂さんの人を巻き込む力にありました。
「起業後はプログラムの学びを生かし、医療関係者だけでなく異業種の方々とも、話す機会があれば事業についてお話しさせていただくようにしています。どこでどう繋がるかわからないので、この人に繋がったらいいなあという人を常に考え、お伝えしていますね。そうしてご紹介いただいた方に実際に講師を勤めていただいたケースもありますよ。」
熊坂さんは起業後、登米市のまちづくりグループの事務局を務めるなど、本業の医療関係者以外とも交流する機会が増えていきました。自分自身が異業種の方々に興味を持って話を聞いていると、中には医療に興味を持ってくださる方もおり、回り回って、紹介から協力してくれる人たちとの出会いも増えていったのだそうです。
想定外の問題にはまず今できることを
事業を始めてすぐは集客に苦戦しておりましたが、宣伝活動のために説明会を開いたり、セミナーを開催したりしていくうちに、少しずつ見学をしたいという声や、参加者も増えていきました。
ところが、2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、仙台で予定していた説明会が中止になり、プログラム自体も、登米に来てもらって学んでいただくということができなくなりました。
7月には受け入れを再開できたものの、やはり、登米市という地域に来ていただき、患者さんのお宅に訪問をすることもあるプログラムのため、受講を希望する方々からは市外や県外から行ってもいいものかという声は少なくありませんでした。
そこで熊坂さんが取りかかったのは、ローカルな小人数制のセミナーでした。
「セミナーはソーシャルディスタンス、手指消毒、マスク着用、換気をしながら10人ほどで開催しました。セミナーを開催した理由としては、毎回1人の受講者に対してセミナーを行なってきたのですが、1人よりも、複数人で受講してもらった方が学びが深まるのではと思ったことと、プログラム以外に収益をあげられる可能性があるのではないか、と考えたためでした。」
大々的な告知はできなかったものの、以前セミナーに参加いただいた方などの口コミを中心に参加者が集まり、熊坂さんの目指している『地域みんなで医療者を育てる雰囲気』が出来上がりつつあるのではと感じることができたそうです。
また、セミナーを地域に開放したのにはもう一つの思いがありました。
「BEARS GATEの事業を進めていく中で、薬剤師の成長の先に、『登米市で働きたいと思ってもらう』というテーマがあります。そのためには地域も受け皿として育っていなければいけません。薬剤師と同時に、受け皿として地域を育てることで、その人の活躍できる場が出来上がるのではないかと感じていたので、地域全体の医療をサポートできる形を作りたいという思いがありました」
地域医療の町、医療教育の町というブランディングへの方向性が見えてきたという熊坂さん。今後も地域向けのセミナーを続けていきたいと話してくださいました。
熊坂さんが描く未来
想定外の出来事に翻弄されながらも、今できることに取り組み、目指す世界へ一歩前進した熊坂さんの描く未来はどのようなものなのでしょうか?
熊坂さんに今後の展望を聞きました。
「まずはこれまでの課題であった“プログラムの認知度を高めること”を考えながら、プログラムの内容はブラッシュアップしながら進めていって、セミナーもオンラインで受講できるようにして収益につなげていこうと考えています。
そして、地域も一緒に育てながら受け皿を作っていき、登米で働きたいという仲間が増えてきたときにその仲間たちと登米の地域医療を変えられるようにしていきたいと思っております。
さらに、人に興味を持っていろいろな人と話しているうちに、医療だけよくなっていっても町全体が良くなるわけではないと思うので、まちづくりを意識しながら自分の事業を成長させていきたいと思います。」
編集後記
今回、熊坂さんのお話を伺い一番印象に残ったのは、熊坂さんの背中を押した理事の田上さんの言葉でした!
“罪”とまで言われたら確かに覚悟が決まるのでは…。起業を志す方や解決したい課題がある!という方に、ぜひこの記事が届いて欲しい…!と思っています。
誰も予測していなかった新型コロナウイルスという壁に対し、熊坂さんのように、自分の軸に従いながら今できることをしっかりとやり、未来と向き合うことが大切なのだと思うことができました。
創業本気プログラムは年度毎に上期、下期の2回開催をいたしております。
皆さんのお近くに、地方での起業を検討している方がいらっしゃいましたら、ぜひご紹介をお願いいたします(^^)!
教えて!起業のリアルQ &A
Q.融資について、起業のリアルを教えてください!
A.私の事業は建物もいらず、元々の勤め先などにあるものを利用できるため設備投資がほぼ必要なかったため、銀行からの融資は受けていません。その代わり、登米市が公募していた「登米市ビジネスチャンス支援事業」に応募をし、採択されて150万円を補助金としていただきました。この補助金は主にHPの製作費や広報目的のセミナーを無料で開催するために使用しました。こういった市などの助成金や補助金は結構ありますので、調べてみるといいかと思います!