女川町の地域おこし協力隊受入事業者の一つである『一般社団法人まちとこ』の代表理事  芳岡 孝将さんに、協力隊を募集することになった背景、そして、協力隊員と共にどんな未来を描きたいかをお伺いしました!

支援のフェーズを越え、女川の暮らしを「続けていく」段階に入った今、まちとこは、地域の中でどんな挑戦を描いているのでしょうか?
そして、その挑戦に共に飛び込む“新しい担い手”と、どんな景色を見ようとしているのでしょう?

 

代表理事 芳岡 孝将さん

■一般社団法人まちとこについて

まちとこは、2021年に女川町で立ち上げた地域密着型の法人です。活動の中心は、町内の子どもたちへの教育支援。小学生から中学生までを対象に、学習のサポートや探究活動の伴走などを行っています。

この法人を立ち上げるきっかけになったのは、震災後に私が関わった「女川向学館」での経験でした。私は当時、認定NPO法人カタリバのスタッフとして女川に入り、現地の子どもたちと日々向き合いながら活動していました。
学びの場であると同時に、子どもたちが安心して話せる場所がいかに大切か、そしてそれを支える大人の存在がどれほど大きな意味を持つかを、現場で強く実感する日々でした。

特に印象的だったのは、保護者や先生とはまた違う距離感で子どもたちと関われる「ナナメの関係」の重要性です。友達のように気を使わず、でも先生のように評価されることもない。そんな立ち位置の大人だからこそ、子どもたちも本音の対話をすることができます。
この関係性が、子どもたちが自分自身を肯定し、前に進むための大きな支えになることを、向学館での実践を通して感じました。

しかし、震災から時間が経つにつれ、カタリバとして震災復興という文脈での支援は継続が難しくなっていきました。カタリバとしても、これまで培ってきた学びの場や機会を失うことに対して課題感があり、「向学館」という場所を何らかの形で残していきたいという思いがありました。
私自身も、地元に戻ってきたくても、実家も、かつて通っていた学校も震災で姿を変えてしまい、「帰ってきた」という実感を持てずにいる子どもたちがいることを知っていました。そうした子たちにとって、自分たちの青春時代を知っている大人がここにいて、「おかえり」と声をかけられる場所があることの意味は大きいと感じていました。向学館には、その役割を担える力がある。だからこそ、あの場所を絶やしたくなかったんです。
そうした背景のもと、私がまちとこの設立を決意し、カタリバから事業を移管する形で法人を立ち上げました。

現在は、向学館での中学生を対象とした自律学習をベースにした学習支援をはじめ、カタリバ時代から継続している学校支援、16時半まで児童が学校に残れるようにする放課後支援「女川放課後楽校」、学童「女川町放課後児童クラブ」の運営、「商売塾」などキャリア学習の機会の提供など、多面的な教育支援を展開しています。

向学館での活動の様子

■芳岡さんと女川の出会い

私はもともと教育に関わる仕事がしたくて、認定NPO法人カタリバに参画しました。しかし、その思いにたどり着くまでには、少し時間がかかりました。

大学受験に失敗して浪人を経験したのですが、その期間が「自分は何がしたいのか」をじっくり考える時間になりました。その中で、人の成長に関わる仕事に関心を持っていることに気付き、父親が塾を経営していた影響もあり、教育に携わりたいと、北海道教育大学に通い教師を目指し始めました。そうして大学で教育について学ぶうちに、社会を知らず“教師”という道しか知らない自分が、自分の思う理想の教師になることができるのかという違和感を感じるようになりました。

自分が子どもたちの前に立つ時、社会と結びつけることができるような教師になりたいと思い、教員採用試験は受けず、大学卒業後は青年海外協力隊へ応募して、モザンビーク共和国へ物理の教師として赴任しました。現地の子どもたちはきっと、勉強できることを幸せに感じ、青空の下で目を輝かせながら授業を受けているのだと思っていたのですが、実際は勉強は嫌いだし、サボろうとするし、日本の子どもと変わらない姿に驚いたことを覚えています。

他にも、現地に行ったからこそお互いの価値観を知り理解できたことも多く、その経験から、現地に行き、自分の目で見て耳で聞くことの大切さを実感しました。そんな最中、日本では東日本大震災が起き、地球の裏側にいて何もできない自分の無力さを痛感しました。

帰国後は地元で教師になろうと思っていましたが、アフリカでの経験から、自分の目と耳で現地の様子を知りたいと思い、被災沿岸部を回ることを決め、教育支援団体もいくつか訪ねて周りました。その中の一つの団体が、認定NPO法人カタリバでした。代表と話し、「自分もここで力になりたい」と思って、カタリバの一員として女川に入ることを決めました。

青年海外協力隊時代の芳岡さん

■まちとこが描く女川の教育の未来

現在、私たちが特に力を入れたいと考えているのが「学校支援」です。これまでも、1年生の下校の付き添いや教室でのサポートなど、必要に応じて関わってきましたが、他の業務との兼ね合いもあり、十分に人手を確保できていないのが現状です。
学校からもサポートをしてほしいという要望をいただいていますが、私たちの活動は放課後が中心のため、日中の支援に柔軟に対応することが難しい状況です。また、学校現場の様子を十分に把握したり、支援のあり方を検討したりする時間も限られており、必要性を感じながらも十分に対応できていないことに、もどかしさを感じています。

こうした課題を受けて、地域おこし協力隊の方には、学校との橋渡し役として、日中の学習支援や生活サポートに関わっていただきたいと考えています。ひとりでも継続的に関わる方がいることで、学校との連携が進み、子どもたちへの支援の幅も大きく広がっていきます。
また、学校外の学びの場づくりにも取り組んでいきたいと考えています。たとえば、留学やプログラミング教育、職場体験の延長のような社会教育プログラムを、地域や女川外の企業・団体と連携しながら実現していきたいと思っています。

女川の子どもたちが、自分なりの「やってみたい」を見つけ、挑戦できる環境を整えていくこと。それが、私たちが目指す教育の未来です。

女川町放課後児童クラブの様子
女川放課後楽校の様子

■教師以外の道で、教育をよりよく

教員免許があっても、必ずしも学校の先生になることだけが、教育に関わる道ではありません。けれど、先生として働かずに教育の現場に深く関わる機会は、そう多くはないのが現状です。ここ女川では、学校の先生方と連携しながら、子どもたちと共に過ごす実践的なフィールドがあります。教育の現場を間近で体験できる貴重な環境です。

活動の中では、放課後の学習支援をはじめ、プロジェクトの企画立案やチームでの実行も行います。ビジネスマナーやプロジェクトマネジメントの基礎を学ぶ機会にもなり、実践の中で「やり切る力」が養われます。うまくいかないことももちろんありますが、失敗もまた大切な学びです。仲間とともに試行錯誤しながら進めるプロセスこそが、私たちの考える“教育”の一部だと捉えています。
子どもたちとの関係性は、親や先生とは異なる、程よい距離感を持った「ナナメの関係」です。上下の関係ではないからこそ、本音で対話ができる。そうした関係性の中で、子どもたちの声に真摯に向き合うことを大切にしています。

教育の分野に関心がある方、教職の道に悩んでいる方、あるいは学校という枠組みにとらわれず、新しいかたちで教育に関わりたいと考えている方にとって、女川での挑戦はきっと意味のあるものになるはずです。

女川の教育から、日本、未来を一緒に作っていきましょう。

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