復興まちづくりの比較政治学〜構造的要因に着目する〜

復興まちづくりの比較政治学〜構造的要因に着目する〜

朝6時20分気仙沼。外は吹雪。無事女川に帰れるのでしょうか・・・そんなことを考えながら書き始めています。

(昨日は晴れていて、船が並んだ港の風景は圧巻だったのですが)

さて、

おとといは須田義明女川町長、昨日は気仙沼市の復興まちづくり企画課長の方に立て続けにヒアリングを行なってきました。

どちらの方も本当にお忙しい中ご丁寧に対応して頂いて本当に有難い限りです。女川に来る前に、最終週にやりたいこととしてこのヒアリングを挙げていたので、私としてはこの2日間はとても実りあるものとなりました。

 

本当なら一つ一つの内容を書きたいところですが、そういうわけにもいかないので、キーとなるポイントを書いた上で、比較政治学の理論に落とし込んで考えていきたいと思います。

 

まずは、そのキーから。

今回のヒアリングでもっとも収穫が大きかったのは、復興まちづくりにおける計画実施や官民連携を可能とした土台がちゃんと存在するということです。具体的に言うと、民が主導で計画を練ってそれを行政側がサポートするという体制を可能にするためには、そもそもの団体構造であったり政治的駆け引き(私はこれを「政治工学」と呼んでいます) がその前提としてあってはじめて、そうした官民連携によるまちづくり(気仙沼市の職員いわく「総働」)が可能となるのです。

そこの土台を知らずに単に「女川式の公民連携が素晴らしい。他も真似すべきだ」という議論は成り立ちません。もの凄く精巧にできたバランスの上にこの女川式構造改革も成り立っているのです。かつてドイツの宰相であったビスマルクは、政治的駆け引きのもと、複雑な同盟関係の糸を操りながらドイツの安全保障を確保していきましたが、1890年に彼を更迭したカイザー(ヴィルヘルム2世)とその周辺の官僚たちはその精巧な仕掛けを理解することができずに、泥沼にはまっていきます。 女川にも似たようなことが言えるのではないでしょうか? 次の世代にバトンを託していくとき、このような複雑な土台構造を理解して操れる人物をどれだけ育成していけるか。女川の未来はそこにかかっているのではないかと感じます。

 

長くなりましたね。

ここから比較政治学の理論を使ってもう少しその構造を細かく見ていきます。(ここから少し話が難しくなるので、興味の無い方はここで閉じてもらって大丈夫です)

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今回応用するのはツェベリスの「拒否権プレーヤー論」とインマーガットの「拒否点」です。詳しい理論の説明は省きますが、それぞれある政策に対する拒否権を持っているアクターや手続きの数/質に着目して政策の違いを分析するという枠組みです。

例えば、拒否権プレーヤー論を使えば、石巻と女川における合意形成のスピードの違いを説明するヒントを知ることができます。それは農業アクターの強さです。女川は農業を本格的な産業として抱えている訳ではなく、復興まちづくりにおける資源配分の優先づけの段階で農業団体が拒否権プレーヤーになっていませんでした。 一方で石巻はというと、農業の中でも対立があり、産業ごとの資源配分をめぐっても、農業団体の合意が必須であり、その意味で拒否権プレーヤーとして機能していました。 この点は、須田町長のヒアリングでも確認できたポイントです。

基本的に拒否権プレーヤーの数が増えると政策転換も行われにくくなるので、若干乱暴な言い方をしてしまえば、女川のまちづくりを可能にした構造的要因の1つがこの拒否権プレーヤー数の違いになるのです。

ただし、事はそう単純にはいきません。昨日見て回った気仙沼も農業団体が弱く拒否権プレーヤーたりえないからです。それなのに女川と気仙沼では復興のスピードに違いがある。それはなぜか?

 

1つの例として女川の商店街と気仙沼の内湾地域の空間づくりの比較をしてみましょう。気仙沼に行くと、商業の中心部になっていくであろう内湾地域での整備の遅れが見えます。女川で見られるようなコンセプトもうまく把握できない。なぜだろうと考えました。

ここで、「拒否点」の理論を導入します。防潮堤と土地区画整理がそのポイントです。ヒアリングを行ってみると、気仙沼の内湾地域では防潮堤の是非や高さ等に関して合意を取らなくてはいけなかった事に加えて、土地交換や買収なども難航していたことがわかりました。つまり、女川と気仙沼双方で共通している拒否点に加えて、防潮堤や土地区画整理への「住民合意」が拒否点として働いてしまっていたのです。拒否点が多い分、コンセプトは同じでも政策の進行度合いに差が出てします う。これは自治体規模の違いが前提としてあるので仕方のないことともいえます。どちらが良い悪いではなく、あくまでも、まちづくりのあり方を規定するような構造的要因が存在するということを示したいというのがこの議論の意図です。

 

今回応用したどちらの理論にせよ、これを突き詰めると論文1つ書けてしまうようなくらいなものなので、ブログでの理論の使い方があまりに雑過ぎるというご批判もあると思いますが、そこは字数と目的の都合上ご容赦ください。

 

私自身、理論で何でも分析出来るという立場(学会などで幅をきかせているような理論信奉者) には断固反対なのですが、ヒアリングを通して理論と実際の現場との「対話」を行うことは割と好きです。今回の2日間をそういう場にすることができたという意味でも、改めてヒアリングに応じて頂いたお二方には感謝申し上げます。

 

(女川にもあるマザーポートコーヒー。本店はかなりお洒落です。ここのラテを飲むとシアトルでの生活を思い出します)

投稿者プロフィール

Shion Ohno
Shion Ohno
はじめまして!大野志温(おおのしおん)です。
東京都出身24歳。東京大学公共政策大学院修了後、都内で働いております。
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